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あの女がますます老いて帰ってきた。


by mucky55

3.11 その日 【 2 】

大きな余震は続いていた。
私はペソをバスタオルにくるんで
その辺に散らばっていた食べ物をつかんで外に出た。

車に乗り、広い駐車場の真ん中にとめた。
ここなら何かが崩れて来てもぶつかる事はないだろう。
もし車がダメになったら、移動の手段も寝る場所もなくなる。
車は死守しなければと思った。

エンジンをかけ、携帯電話を充電しながら
何度も何度もオッサン君や母にかけてみたけど
全くつながらない。メールも行かない。

ペソはずっと抱いていたら、やっと少し落ち着いたようだけれど
それでもグラッと余震が来ると、体を硬くし、ブルブルと震えた。
どれだけ怖かった事だろう。

車の中が何だか香ばしい、一体何の匂いだろう?と思ったら
それはごま油だった。ペソの体のあちこちに付着している。
台所のごま油がすっ飛んで瓶が割れて、それを踏んだかのかも知れない。

そうだ、私もなんだか茶色っぽい液体を踏んだと思ったけど
あれは多分ごま油だ。自分の靴底もいいにおいだ。


カーラジオを付けて地元のラジオに合わせると
聞き慣れた声のアナウンサーが、茨城は震度6だったと伝えていた。

震度6!

初めての体験だった。
5は、ある。でも5と6の間にこんなに差があるとは思わなかった。
5と6は全くの別物だった。

同時に宮城が震度7と聞き、震え上がった。
そして津波。「大津波警報」って何?

海のそばに住む友人の顔が浮かんだ。
彼女は大丈夫だろうか。
以前60センチの津波が来た時、玄関先まで水が上がったと言っていた。
それが今度は「大津波」だ。2メートルだか3メートルだかと言っている。

彼女の無事を祈り、震度の大きな地区に住む友人たちの無事を祈った。

30分以上、車内でラジオに釘付けになっていて
ハッと気がついた。
水戸市内は全域停電断水中と言っている。

日暮れは迫っている。

日が暮れる前に、せめてガラス類食器類だけでも片付けないと
あぶなくて家には入れない。

今度は急いで部屋に戻り、ペソは車に残して
靴のまま割れた物の片付けを始めた。
軽い食器は全滅に近かった。焼き物の重い皿などは無事だった。

あんなひどい揺れだったのに、TVとPCは無事だった。
そしてもう一つありがたかったのは、メガネが無事だった事。
私が置いた、そのままの位置に、落ちもせず飛びもせずにあった。
強度の近眼の私は、コンタクトをはずしたらお手上げだ。
緊急時はメガネが命だ。

TV、PC、メガネ、ペソ。
大事な物はすべて無事だった。
神様ありがとう。


どうにか日暮れまでに、おおまかではあるけれど破片の処理と
寝る場所の確保、座る場所の確保を終え、ペソを迎えに行くと
鳴き疲れて丸まって眠っていた。
何度か余震もあったので、その恐怖からか
足元にオシッコを漏らしていたが、怒らないでおこう。

あっという間に日が暮れて真っ暗になった。
ライト1個、懐中電灯1個、ラジオ1個。
家中の水と食べ物を集めたテーブル。

風呂の残り湯を抜いてしまった事を、激しく悔いた。
あれがあれば、トイレが流せるのに。

まだ誰とも連絡がつかない。
オッサン君はどうしてるのか。
母は大丈夫なのか。
真っ暗な中、日曜必需品を集めながら
寒さと心細さで凹みかけていたその時
家の電話が鳴った。

電話が通じた!?

もしもし!慌てて出ると、東京の友達だった。

「ムッキー!?大丈夫!?」

「わああああ(T▲T)ああああ!Aちゃん!」

彼女の声を聞いた途端、ほっとして涙が出た。

「無事で良かった!家は大丈夫?
 オッサン君は?みんな大丈夫?」

「それが、全然つながらないんだよ、多分大丈夫とは思うけどね
 こんな時に通じないなんて、携帯なんて案外ダメだね!」

迷惑とはわかっていても、電話を切りたくなかった。
誰かとつながっていたかったんだと思う。
心細くて、心細くて、どうしようもなかった。


その時に、玄関の鍵ががちゃんと開く音がした。


俺は~不死身の~男だぜぇ~♪


歌いながらオッサン君が帰って来た!


「あー!今オッサン君が帰って来たあ!!」

「まじでーーー!よかったーーーー!」

電話の向こうでAちゃんも叫んでる。



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by mucky55 | 2011-03-17 11:19 | 震災